はじめに
自動車工学シリーズの3回目です。今回は、自動車工学の基本中の基本、「仕事(work)」と「仕事率(power)」についてやさしく解説します。第1回、2回は以下です。


「仕事」とは
日常会話での「仕事」とは異なり、物理の「仕事」には明確な定義があります。
「運動方向と同じ方向の力Fで距離s動かしたときに、F・sの仕事をした」といいます。
簡易的に式で表現すると
仕事(J) = 力(N) × 距離(m)
仕事の単位はJ(ジュール)です。(N・m)はトルクを表現する(Nm)と紛らわしいですが、仕事にはベクトル(向き)の要素があるため、別物です。
もうすこし正確に記号で表現すると以下になります。
W(J) = F・s cosΘ
これは、数学で学んだ「ベクトルの内積の式」と同じ形です。
「90°の内積は0」と習いましたが、「仕事」で考えると当たり前の話です。
運動方向に対して、90°の方向に力を与えてもなんの意味もありません、(仕事は)0です。
なお、J(ジュール)という単位は、力学的な仕事だけでなく、熱や電気などすべてのエネルギーの共通単位です。
エネルギーの種類 | 式や説明 | 例 |
力学的エネルギー | 力(N) × 距離(s) | 車を動かすエネルギー |
電気エネルギー | 電圧 × 電流 × 時間 | バッテリーやモーターのエネルギー |
熱エネルギー | 熱量(カロリー)を変換 1cal ≒ 4.184J | ガソリンの燃焼、温度上昇 |
「仕事率」とは
仕事率とは1secあたりの仕事です。どれだけ速く仕事をするか?つまりは「仕事をするスピード」のことです。
仕事率(W) = 仕事(J) / 時間(s)
仕事率(W)になる組み合わせはたくさんあります。
式 | 説明 | 単位の組み合わせ | 結果 |
仕事 ÷ 時間 | 仕事をする速さ | J ÷ s | W(ワット) |
力 × 速度 | 力をかけて動く速さ | N × m/s | W(ワット) |
電圧 × 電流 | 電気の力と流れる量 | V × A | W(ワット) |
トルク × 回転数(角速度) | 回す力と速さ | N・m × rad/s | W(ワット) |
自動車でよく使う考え方
自動車という製品の性質上、以下の式変形をよく使いますので紹介しておきます。
走っている車は以下の運動方程式で走っています。
F(N) = M(kg) × a(m/s2)
ここで、両辺に速度V(m/s)をかけます。左辺は、力 ×速度になりますので、単位はWです。
F(N) × V(m/s) = M(kg) × a(m/s2) × V(m/s)
ここで、入力エネルギーについて考えます。
エンジンの仕事率(W) = エンジントルク × エンジン回転数
つまり、効率を無視すれば以下の等式が成立します。
エンジントルク × エンジン回転数 = M(kg) × a(m/s2) × V(m/s)
この式は自動車開発でよく使います。
まとめ
今回は非常に重要な、仕事と仕事率について書きました。
昨今はバッテリーEVになり、左辺がモータ出力(W)になりました。エンジンと多段トランスミッションの組み合わせに対し、効率など考慮する難易度が劇的に下がったため、車を走らせるエネルギーの計算は簡単になってきてます。
ロードバイクのパワーメータで計測しているのもワットですね。ケイデンス(回転数)とトルク(ひずみゲージで測定)の積です。
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