自動車工学基礎シリーズ 第5回 トルクコンバータ

はじめに

自動車工学シリーズも5回目になりました。今回は「トルクコンバータ」について解説します。エンジンの動力をスムーズにタイヤに伝えるこの装置は、現代のクルマに欠かせない存在です。今回はトルクコンバータの基本構造や作動原理、そして燃費向上に寄与するロックアップ機構やスリップロックアップ制御について解説します。
なお、第1~4回は以下ですので御覧ください。

トルクコンバータとは?

トルクコンバータは、エンジンとオートマチックトランスミッションの間に配置される油圧式の動力伝達装置です。
主に以下の3つの役割を果たします。

・ 動力の伝達 : エンジンの動力をスムーズに伝達する
・ 動力の遮断 : アイドリング時などのエンジンと駆動系を切り離し、エンストを防ぐ
・ 入力トルクの増幅 : 発進時にエンジンのトルクを増幅する

    トルクコンバータの構造と作動原理

    百聞は一見にしかず。Learn Engineering(日本語版)さんの動画を参照ください。

    ロックアップクラッチとは?

    トルクコンバータは油を介した動力伝達のため、どうしても「滑り(エンジン回転とトルコン回転数の差)」が発生します。この滑りは燃費の悪化や動力ロスの原因になります。

    そこで登場するのがロックアップクラッチです。高速走行時など所定の条件が成立すると、トルクコンバータ内でエンジンとトランスミッションを機械的に「直結」させ、滑りをゼロにすることができます。ロックアップ制御により以下のような効果が得られます

    走行フィーリングの改善(ダイレクト感の向上)
     エンジン回転の上昇がロスなく駆動系の回転数の上昇となり、意のまま感が増します

    エネルギーロスの低減、燃費の向上
     トルクコンバーター内部の滑りはトルクコンバータ内の油の温度上昇に使われ、捨てられてしまいます。
     滑りをなくすことは熱として捨てるエネルギーが大幅に減少します。

    スリップロックアップ制御とは?

    ロックアップクラッチを意図的に微小に滑らせた状態で制御する「スリップロックアップ制御」も存在します。この制御の主な目的は以下です。

    • ロックアップするとエンストの懸念のあるような低ギヤ段(1~3速)× 低回転(900~1100rpm程度)のロスを最小限にする
    • 変速中に瞬間的にロックアップクラッチを開放し、変速ショックを緩和する
    • 減速燃料カット状態を維持する
      減速中のエンジンは燃料カットしているため、ほうっておくとエンストしてしまう。
      →回転しているタイヤとエンジンを繋いで、タイヤの力で回転させる
      →完全にロックアップしていると急ブレーキでエンストする懸念があるため、”スリップ”という弱締結状態を選択する場合がある。

    一定のスリップ量に保つには非常にきめ細やかな油圧制御が必要です。また、クラッチをスリップさせて使うハードな使い方となるため、私は嫌いな制御です。。

    トルクコンバータの特性

    トルクコンバータの性能や動作を数式で表すときに使われるのが、以下の3つのパラメータです。

    速度比
    トルク比
    容量係数

    速度比(Speed Ratio, e)

    速度比とは、タービン回転数(トルクコンバータ出口回転)とエンジン回転数(トルクコンバータ入口回転)の比

    e = Nt / Ne

    速度比は0から1まで変化します。発進する瞬間は0、ロックアップしている時は1です。

    トルク比(Torque Ratio, t)

    トルク比とは、タービントルク(トルクコンバータ出力トルク)とエンジントルク(トルクコンバータ入口トルク)の比
    「エンジントルクをt倍に増幅する」という意味です。

    発進直後がトルク比が最大になります。
    通常は2前後で設計されており、速度比が1に近づくとトルク比も1に収束します(増幅なし)

    容量係数(Capacity Factor ,C)

    容量係数は、トルクコンバータがどのくらいのトルクを伝達できるか、を示す特性値
    トルクコンバータ設計の大部分は、「所望の特性になるように、速度比毎に容量係数とトルク比を作り込むこと」です

    私の周りでは、容量係数が大きいほど「かたい(=ロックアップに近い)」と表現していました。

    トルクコンバータの物理式

    非ロックアップ状態において、トルクコンバータに関するトルクは以下のように計算できます。
    C(容量係数)  ×  エンジン回転数2  = エンジントルク

    上記式にトルク比をかけると、トルクコンバータの出力トルクを算出することができます。
    C(容量係数)  ×  エンジン回転数2  × トルク比 = エンジントルク × トルク比 = タービントルク

    エンジン回転900rpm(アイドル停車)で、容量係数23(×10-6)、トルク比1.8のトルクコンバータを使っている場合
     → トルクコンバータ出口(=トランスミッションの入口)で、33.5Nmが発生しています。

    まとめ

    バッテリーEVは当然、トヨタのTHSなどトルクコンバータを使用していない車は増えてきています。
    また、トルクコンバータレスにチャレンジしている車もあります(1→2変速や2→3変速でショックが目立つ車が多いのが現状です)が、まだまだトルクコンバータを搭載した車両は多いです。
    ぜひ車に乗る際はトルクコンバータの挙動を想像しながら乗ってみてください。意識すればロックアップのタイミングはわかると思います。

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